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インドの今を知る

2010年11月1日

貧困層にも金融サービスを・他

貧困層にも金融サービスを

ウォールストリートジャーナル日本版2010年9月29日号の記事「インド、国民皆番号制を本格導入へ」は、12億人の国民ひとりひとりに12けたの異なる番号を振り分けるという壮大な計画の実現に向けて、インドが活動を本格化するというもの。国民全員の指紋と眼球の虹彩の記録を巨大な中央のデータベースにIDとして保管するという計画です。その実現に向けて、インド政府は、世界のIT業界で活躍するインド出身者を採用しています。

政府は、IDナンバーの導入で、社会保障がしかるべき人々に行き渡り、何百万人という貧困層が初めて銀行取引などのサービスを利用できるようになるとしています。IDの登録作業は既に一部の地域で始まっており、政府は3月までに1億人、4年以内に6億人に固有ID番号が発行する意向です。シン首相は、ID導入プログラムの責任者として、インドのIT大手インフォシスの元最高経営責任者(CEO)、ナンダン・ニレカニ氏を起用。政府の取り組みにインフォシスの効率性を取り入れることで、作業のスピードアップに努めています。

大きな問題は、ID番号と人をどうやって正しく照合するのか、ということです。銀行や携帯電話会社のような業者は、指紋読み取り装置を設置しインターネット上でデータの照合ができます。しかし食糧の配給を受けるような貧困層の住む地域でこのような高価な装置を導入することは現実的でありません。

インド政府は、食糧、ディーゼル、肥料などへの助成金を含む、貧困層を対象としたプログラムに今後5年間で2500億ドルを投じる見込みです。ニレカニ氏はプロジェクトのセールスマンとして、国内各地をまわって政府機関や規制当局に固有ID制度への理解を求めています。また、偽造を減らすだけでなく、金融業界に事業拡大のチャンスを与えることにも力を入れています。

インドの成人の約3分の2は、銀行口座を開設していません。その背景のひとつが、貧困層の多くが身元や住所を証明する書類を持っていないことがあります。個別ID制によって、IDを持てるようになれば、そういった人々も基本サービスだけに限定した銀行口座を開設できるようになるとニレカニ氏は説明します。

インドをサービス業の首都に

日本経済新聞の記事「[FT]国を挙げて中国語教育に乗り出すインド」(2010年10月5日付)によると、インドの人口12億人のうち、およそ6割が25歳未満。増加し続ける人口は、年間8.5%の国内経済成長が提供できる以上の機会を必要としています。

手近にある答えが、中国語を学び、お隣でインド以上の急成長を遂げる中国経済のチャンスをつかむこと。カピル・シバル人的資源開発相(教育相に相当)は、インドの公立学校に中国語教育を取り入れ、インドの言語力向上のために中国政府の協力を得ることを提案しました。実現すれば、長年にわたって英語と国内の地域言語を優先させ、中国語習得の重要性を軽視してきたインドにとって、大きな政策転換となります。

中国は、インドを世界のサービス業の首都にしようとするシバル氏の構想にとって不可欠な存在となるものです。インドは将来、社会の高齢化が進んで人材を必要とする国々に人的資源を輸出するようになるでしょうし、一人っ子政策を追求した中国はその1つになると見られています。

シバル氏の着想の原点は、インドのITアウトソーシング産業です。英語の使用と有能な若い学卒者のおかげで、インド経済は過去20年間で北米および欧州経済にしっかり組み込まれ、同業界の企業は中南米諸国やほかのアジア諸国、中でも開拓が難しい中国、日本市場に拠点網を広げつつあります。

言語能力はこのモデルの成功にとって、中核的な要素となるものです。

ただ、中国語教育の推奨は、いくつかの障害に見舞われるでしょう。まず、インドの保守的な後期中等教育中央審議会(CBSE)や、地域の母語を優先している大半の州で言語を取り巻く政治勢力を説得する必要があります。さらに、インドのアイデンティティーや、中国と国境を接するインド北東部の州の言語を希薄化する危険を冒す政策と考える人もいるかもしれません。

それでも、シバル氏は間違いなく、大事なことに気づいています。近代のインドでは、言語は状況を大きく変える力を持っているのです。

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土肥克彦(有限会社アイジェイシー

福岡県出身。九州大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。東京本社勤務時代にインドでのソフト開発に携わる。2004年に有限会社アイジェイシーを設立し、インド関連ビジネス・サポートやコンサルティング・サービス等で日印間のビジネスの架け橋として活躍している。また、メールマガジン「インドの今を知る!一歩先読むビジネスのヒント!」を発行、インドに興味のある企業や個人を対象に日々インド情報を発信中。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.178(2010年11月01日発行)」に掲載されたものです。

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