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インドの今を知る

2011年1月1日

経済成長がもたらした予想外の影響・他

経済成長がもたらした予想外の影響

ブルームバーグ2010年11月8日付の記事「インドの急成長を脅かす『死に至る病』-貧困生活改善の重い代償」では、10代の息子2人を持つ40歳の女性が、ムンバイ郊外の高層アパートに住んで5年ほど経った頃に糖尿病と診断された事例が紹介されていました。子ども時代の飢えと貧困から脱し、急拡大する中産階級の一員になった後、長期にわたる運動不足と過食が結び付いて引き起こされたものでした。

インドの糖尿病患者は5,000万人を超えており、国際糖尿病連合(IDF)は2009年10月に、インドを世界で糖尿病患者が最も多い国としました。IDFでは、今年のインドの糖尿病による死亡者数が世界で最悪の約100万人に達すると推定しています。インドでは生活水準向上があだとなり、糖尿病および心臓病などの合併症にかかりやすくなっています。

10年間で平均7%の経済成長が4億人の国民を中産階級に押し上げたものの、何世代にもわたって貧困や栄養不良、肉体労働に耐えてきた体は高カロリー食への抵抗力がなく、運動の時間を奪う車やテレビ、パソコンなどの誘惑にも屈することとなりました。

こうしたインド特有のパターンは、誕生前から始まっており、栄養不足の母親から生まれた子どもの体は小さく代謝作用も低栄養に適応しているため、栄養過多に対応できないということです。全インド医科大学のニキル・タンドン教授(46)は、大学を卒業した80年代半ばには、インド都市部の成人の2型糖尿病罹患率は3~4%でしたが、「現在は11ないし12%で、南部には、18~19%に達する地域がある」と言います。2型糖尿病とは、インスリンが血液中のブドウ糖を調整できなくなるもので、世界の糖尿病患者の約90%がこの型です。

インドの糖尿病患者の平均発症年齢は42.5歳と、欧州に比べて約10年早くなっています。そのため糖尿病関連コストは対GDP比で、米国の1.2%、英国の0.4%に対して、インドは2.1%に上ると推計されています。インドは、生活改善と引き換えに多くの人を糖尿病にしてしまいましたが、その影響も当初の見通しよりもずっと深刻なものとなっています。

長期雇用で働ける日本企業は、インド人にとって魅力的

日経BPの記事「インド留学生は『金の卵』」(2010年11月12日付)は、インドと日本の「かけ橋」作りを目指して、日本で環境技術会社グリーンジャパンを起業したインド人のニルマラ純子氏に、今後、日本のインド進出が一段と加速する中で、インド人をどのようにマネジメントすべきかについて聞いたものです。

留学においては、優秀なインド人は米国に行くので、10年ぐらい前は日本に留学するインド人はほとんどいませんでした。今は500人ぐらいのインド人留学生が日本で勉強しています。しかし、日本でも英語で勉強している人が多く、日本語文化の日本企業では働きたがりません。また、インドの大学では就職活動とは「キャンパス・リクルートメント」で、これは大学生が3年生時に、有力企業が大学にやってきて学生とインタビューするもの。優秀な学生は短期間で就職が決まってしまいます。日本では、応募のためのエントリーシートを書いて、何度も面接に行かなくてはいけないなど手間がかかります。こういう状況に対応しないと、日本企業は日本でもインドでも優秀な学生を採用するのが難しくなります。

また、インド人の管理では、少しやらせて、うまくできないから、ダメだ、というのではなく、よく話し合って育てていく、長期的な視野を持つことが必要です。インド人はプライドが高いですが、誠実に向き合えば心は通じます。自己主張が強いとされますが、それは米国を意識しているためです。日本企業で働けば、必ずしも自分の意見ばかりを主張するようにはならないでしょう。

昔、何もない時代にインドに来て、現地の人と協力して一から事業を立ち上げたスズキの鈴木修会長はヒーローです。今の日本企業は話をすると、インドの文句ばかり。インドはインフラが最悪だ、インド人は良くない、あるいは、お腹をすぐにこわしてしまうなど。

インド人は仕事の内容や働く環境を重視し、家族思いでもあります。長期雇用でしっかり働ける日本企業というのはそういう意味で魅力的で、インド人の意識と日本企業は実は合っていると思われます。鈴木会長のやり方からも見習うべき点があるでしょう。

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土肥克彦(有限会社アイジェイシー

福岡県出身。九州大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。東京本社勤務時代にインドでのソフト開発に携わる。2004年に有限会社アイジェイシーを設立し、インド関連ビジネス・サポートやコンサルティング・サービス等で日印間のビジネスの架け橋として活躍している。また、メールマガジン「インドの今を知る!一歩先読むビジネスのヒント!」を発行、インドに興味のある企業や個人を対象に日々インド情報を発信中。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.181(2011年01月01日発行)」に掲載されたものです。

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