シンガポールの畜産業

「シンガポールの農業」「シンガポールの水産業」に続く「第1次産業シリーズ」の第3弾として、今回は畜産業を紹介する。広大な緑のじゅうたんが広がるような牧草地で牛や羊がのんびり草を食む、という風景はシンガポールでは見られそうもないが、果たしてどのような畜産業が行われているのだろうか？

 

 

少数だが、バラエティに富んだ畜産が今も行われている

シンがポールでは1960年代から1980年代終盤まで北部ポンゴール（Punggol）からジャラン・カユ（Jalan Kayu）、そしてヨーチューカン（Yio Chu Kang）で養豚が盛んに行われていた。現在、豚肉加工業を手がけるSAHE社は、シンガポール最後の養豚業者の一つだった。最初はチュアチューカン（Chua Chu Kang）に養豚場を持ち、その後ポンゴールに移転、当時はアメリカ、デンマーク、オーストラリア産の約2,850頭の豚を飼育していた。しかし、養豚場は汚く、土地と水を使いすぎる、といった理由から政府の方針によって1987年、すべての養豚業者が廃業した。

 

鶏肉の養鶏場はなく、採卵鶏を飼育する農場、レイヤーファーム（Layer Farm）が3社となっている。ダックファームはすでにないが、うずらの飼育農場がある。これらのほか、食用ガエルやヤギ、ワニといったユニークな畜産も行われている。

 

 

このように数は少ないが、シンガポールではバラエティに富んだ畜産が行われている。そして、最近の人々の健康志向の高まりによって、地元産の安全かつ栄養価の高い食品が注目されているのだ。

 

 

 

鶏卵農場 Chew’s Agriculture

 

 

創業はいつですか？

1987年に会社として登録し、最初は雄鶏と雌鶏を飼育し、孵化したひよこを販売する農場でした。その後1997年末からレイヤーファームとして鶏卵をシンガポール市場に出すようになりました。

 

何羽の鶏を飼育し、1日何個の卵が生産されますか？

鶏の数は55万羽です。これらはシンガポールの気候に適したオランダ産の鶏です。1日約39万個を生産します。鶏が卵を産み始めるのは生後19週目から。27時間周期で卵を産みます。

 

鶏卵にはどのような種類がありますか？

Chew’sでは、通常の卵よりコレステロールを30％少なくし、栄養価を高めたデザイナーエッグ（Designer Eggs）を生産しています。オメガ3やオメガ6、ベータカロチン、ゼアキサンチン、ヤクルト菌、冬虫夏草などを含むもの、ブラックチキン（烏骨鶏）の卵など各種あります。2011年11月からは香港へ輸出も始めました。

 

シンガポールの鶏卵の特長は何でしょうか？

やはり外国から輸入された卵より新鮮さで勝ります。また、シンガポール農産品獣医庁(AVA)とシンガポール・クオリティ・エッグ・スキーム（Singapore Quality Egg Scheme／SQES）により、生産者は卵と鶏に与える飼料にサルモネラ菌、アフラトキシン、抗生物質、メラミン、ニトロフラン合成抗菌剤などが混入しないことを厳格に守らなくてはなりません。ですから消費者の方は安全で新鮮な卵をお買い求めいただけます。卵をお買い上げの際は、Singapore Quality Egg Schemeのマークに注目してください。

 

 

 

 

食用ガエル養殖場Jurong Frog Farm

 

創業はいつですか？

1981年です。

 

何匹のカエルがいますか？それらはどのような種類のカエルですか？

1万5,000匹のカエルを飼育しています。カエルは台湾やマレーシアから輸入したもので、種類はアメリカウシガエル（American Bullfrog）のみです。

 

1日のカエル肉の生産量は？

1日約300〜350キログラム、1,200〜1,400匹分の肉を生産しています。冷凍や生肉のカエルの足や、一匹丸ごとの肉をファームで販売しているほか、スーパーマーケットや中国料理店へ卸しています。

 

出荷されるまでの期間はどれくらいですか？

おたまじゃくしから赤ちゃんカエルになるまでに4ヵ月、そして生後9ヵ月で大人のカエルになり、生後1年以内に出荷します。餌は魚肉配合飼料を使っています。

 

カエル肉にはどのような栄養が含まれていますか？

タンパク質、カルシウム、リンが豊富なので育ち盛りの子供や、更年期後の骨粗鬆症の緩和に効果があるとされます。また、ビタミンEや亜鉛なども含み、肌に潤いを与える効果や、抗がん作用があるといわれる栄養分も含みます。中国ではカエルの肉は歯痛や背中の痛みを治し、体の毒素を排出して、免疫力を高めるといわれています。消化器系の疾患を持つ方や、動物性たんぱく質アレルギーの方にもカエルの肉はおすすめです。

 

カエル肉のほかに、どのような製品を生産していますか？

カエルの卵管を乾燥させてつくったボトル入りのプレミアム・ハシマ（Hashima、雪蛤）があります。カエルの皮を使った雑貨製品についても現在、検討中です。

 

 

 

 

 

ヤギ酪農場Hay Dairies

 

創業はいつですか？

元々は鶏、ダック、豚などの飼育から始め、1970年〜80代には養豚専門農家として2,000頭の豚を抱えるシンガポール有数の養豚農家でした。1980年代に入ってから養豚ができなくなり、代わりにヤギ酪農場となったのが1988年です。それ以来、シンガポールで唯一のヤギ酪農場です。

 

何頭のヤギがいますか？

800〜900頭のヤギを飼育しています。アメリカ産の酪農用ヤギでトゲンバーグ（Toggenburg）、ヌビアン（Nubians）、アルパインズ（Alpine）の3種類を飼育しています。

 

1日のヤギミルクの生産量は？

1頭あたり2〜5リットルです。搾乳は毎朝9時から11時までの間に10頭ずつ搾乳機を使って乳を搾ります。1回の所要時間は5分〜10分。搾乳が初めてのヤギは抵抗することもありますが、慣れてくると進んで搾乳場にやってくるようになります。

 

ヤギミルクにはどのような特長がありますか？

プロテインを多く含むなど栄養価が高い一方、コレステロールや乳糖は少ないのがヤギミルクです。また牛乳よりもナトリウムが少なく、カリウムを多く含みます。さらに牛乳は酸性ですが、ヤギミルクはアルカリ性で胃や肝臓にもやさしい。消化吸収に優れ、牛乳や豆乳などにアレルギーがある人にとって、ヤギミルクは代替品となりえます。年齢に関係なく、どなたにも飲んでいただけます。また、当社のヤギミルクはナチュラルな製品であることにこだわり、保存料などの添加物を加えていません。